緑内障の点眼薬は、眼球内を循環する房水(ぼうすい)に作用する薬で、大きく2つのタイプに分けられます。
ひとつは房水の産生量を減らす薬、もうひとつは房水を眼の外へ排出しやすくする薬です。
眼圧は房水の量によって決まるため、これらの点眼薬を使って房水の「作る量を減らす」か、「排出を促す」ことで眼圧をコントロールします。
中には、両方の作用をあわせ持つ点眼薬もあり、患者さんの状態に応じて使い分けられます。
具体的な薬の分類としては、以下のようなタイプがあります。
例:チモロール、ミケランなど
交感神経のβ受容体をブロックし、房水の産生を抑えることで眼圧を下げます。
眼圧下降効果が安定しており、長年にわたって使用されてきた実績のある薬です。歴史的には、初期の治療薬であるピロカルピンに続いて登場し、プロスタグランジン関連薬(ラタノプロストなど)が登場するまでは、緑内障治療の第一選択薬とされていました。
ただし、心臓や肺に副作用が出ることがあるため、喘息や徐脈のある方では注意が必要です。
例:トルソプト、エイゾプトなど
毛様体にある炭酸脱水酵素の働きを抑えて、房水の産生を減らします。
点眼タイプと内服タイプがありますが、点眼は全身への副作用が少なく使いやすいです。
例:アイファガンなど
交感神経のα2受容体を刺激することで、房水の産生を抑えるとともに、排出を促進する作用もあるため、二重の眼圧下降効果が期待できる薬です。
さらに、視神経に対する「神経保護作用」にも注目されています。
眠気や口の乾きなどの全身性の副作用が出ることもあります。
例:ラタノプロスト、トラバタンズ、タプロス、ルミガンなど
房水の排出経路である「ぶどう膜強膜流出路(副流出路)」を広げて、房水の排出を促進し、眼圧を下げる薬です。
1日1回の点眼で効果が持続し、眼圧下降効果も強いため、現在もっともよく使われている緑内障治療薬です。
副作用として、まつげが伸びる、目の周囲の色素沈着、虹彩の色の変化などがあります。
例:エイベリス(一般名:オミデネパグ イソプロピル)
新しい作用機序をもつ薬で、「EP2受容体」に作用して房水の排出を促進します。
従来のPG関連薬とは異なるルート(ぶどう膜強膜流出路)を刺激するため、PGで効果が不十分な症例にも使用可能です。
まつげの変化や色素沈着が少ない一方で、結膜充血や眼痛などが見られることがあります。
例:グラナテックなど
比較的新しい薬で、「線維柱帯(主流出路)」という排出経路を広げる作用があります。
これまでの薬で眼圧が十分に下がらない場合や、他剤との併用で使用されます。
目の充血が起こりやすいですが、多くは時間とともに軽減します。
例:サンピロ(一般名:ピロカルピン)
もっとも古くから使用されている緑内障点眼薬で、毛様体筋を収縮させることにより、線維柱帯からの房水排出を促進します。瞳孔を縮瞳させる作用があるため、暗い場所での見えにくさや頭痛などの副作用が出やすいのが難点です。
そのため、現在では原発閉塞隅角緑内障や狭隅角眼など特定のタイプの緑内障で使用される場合がありますが、通常の緑内障(開放隅角緑内障)では使われることはあまりありません。
複数の成分を1本の点眼薬にまとめた「合剤」も増えてきています。
例:ザラカム(β遮断薬+PG関連薬)、コソプト、アゾルガ(β遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬)、アイラミド(炭酸脱水酵素阻害薬+α2刺激薬)、グラアルファ(Rhoキナーゼ阻害薬+α2刺激薬)など
点眼の本数や回数を減らすことができ、治療の継続性を高めるというメリットがあります。
ただし、それぞれの成分に起因する副作用には注意が必要です。